お墓参りの作法は基本的にはどの宗派もほとんど変わりありません。しかし、いくつかのポイントについては宗派ごとに違いがあります。この違いを知っておくことで、お墓参りの作法を間違って後で後悔する、といったことを事前に防ぐことができます。
そこで、お墓に関する取材を続けている筆者は仏教の13宗派において、作法のどこに違いがあるのかを調査してみました。その結果、大きく4つのポイントで違いがありました。
この記事では、その4つのポイントに分けた、お墓参りの作法の「宗派別の違い」を一覧にして公開しています。「今度お墓参りするお墓がどの宗派で、どんなお墓参りの作法があるか」を知りたい方のお役に立てると思いますので、ぜひ最後までご覧ください。
お墓参りの作法、宗派別の違いは「合掌」「線香の上げ方」「唱えるお題目」「数珠」の4つ
下記は、筆者が今回調査した「お墓参りの作法、宗派別の違い」の一覧になります。調査した結果、宗派別に異なるのは主に「合掌」「線香」「唱えるお題目」「数珠」の4つであり、それ以外はほとんど共通していました。
◆お墓参りの作法、宗派別の違いのまとめ
宗派 | 合掌 | 線香 | 唱えるお題目 | 数珠 |
浄土宗 | 堅実心合掌(けんじつしんがっしょう) | 1本 | 南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ) | 日課念珠(にっかねんじゅ) |
浄土真宗(本願寺派) | 虚心合掌(こしんがっしょう) | 本数に決まりはないが、立てずに横に寝かせる | 南無阿弥陀仏(なもあみだぶつ) | 単輪念珠(ひとわねんじゅ)・・二輪念珠(ふたわねんじゅ) |
真言宗 | 金剛合掌(こんごうがっしょう) ※帰命合掌(きみょうがっしょう)ともいう |
1〜3本 | 南無大師遍照金剛(なむたいしへんじょうこんごう) | 振分念珠(ふりわけねんじゅ) |
天台宗 | 堅実心合掌(けんじつしんがっしょう)または虚心合掌(こしんがっしょう) | 1〜3本 | 南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ) | 平玉(ひらだま) |
日蓮宗(法華宗) | 堅実心合掌(けんじつしんがっしょう) | 1本 | 南無妙法蓮華経(なむみょうほうれんげきょう) | 勤行念珠(ごんぎょうねんじゅ) |
臨済宗 | 虚心合掌(こしんがっしょう) | 1本 | 南無釈迦牟尼仏(なむしゃかむにぶつ) | 看経念珠(かんきんねんじゅ)※金属の輪がある |
曹洞宗 | 虚心合掌(こしんがっしょう)で立拝する | 1本 | 南無釈迦牟尼仏(なむしゃかむにぶつ) | 看経念珠(かんきんねんじゅ)※金属の輪がない |
時宗 | 未敷蓮華合掌(みふれんげがっしょう) | 1本 | 南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ) | 日課念珠(にっかねんじゅ) |
黄檗宗(おうばくしゅう) | 決まり無し | 決まり無し | 南無釈迦牟尼仏(なむしゃかむにぶつ) | 看経念珠(かんきんねんじゅ)※金属の輪がなく、108粒の玉と2個の親玉、10個ごとの記子がある |
融通念仏宗(ゆうずうねんぶつしゅう) | 決まり無し | 1〜3本 | 南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ) | 半繰念珠(はんくりねんじゅ) ※片繰念珠(かたくりねんじゅ)ともいう |
なお、宗派は他にも法相宗(ほっそうしゅう)・律宗(りっしゅう)・華厳宗(けごんしゅう)の3つがありますが、これらの宗派は「奈良仏教系」という、仏教の教示の追求に重きを置いた宗派のため、お墓参りに関してその宗派特有の決まりがあるわけではありません。そのため割愛しています。
それでは次に、「合掌」「線香」「お題目」「数珠」の4つのポイント別に「お墓参りの作法、宗派別の違い」を解説します。
お墓参りの作法における、宗派別「合掌(手を合わせる形)」の違い
宗派 | 合掌 |
浄土宗 | 堅実心合掌(けんじつしんがっしょう) |
浄土真宗(本願寺派) | 虚心合掌(こしんがっしょう) |
真言宗 | 金剛合掌(こんごうがっしょう) ※帰命合掌(きみょうがっしょう)ともいう |
天台宗 | 堅実心合掌(けんじつしんがっしょう)または虚心合掌(こしんがっしょう) |
日蓮宗(法華宗) | 堅実心合掌(けんじつしんがっしょう) |
臨済宗 | 虚心合掌(こしんがっしょう) |
曹洞宗 | 虚心合掌(こしんがっしょう)で立拝する |
時宗 | 未敷蓮華合掌(みふれんげがっしょう) |
黄檗宗(おうばくしゅう) | 決まり無し |
融通念仏宗(ゆうずうねんぶつしゅう) | 決まり無し |
お墓の取材を続ける筆者の調査結果では、お墓参りの際に行う「合掌」の形が、宗派によって上記の表のように違っていました。
以下、それぞれの合掌の形を解説します。
・堅実心合掌(けんじつしんがっしょう)
浄土宗・天台宗・日蓮宗
真剣な心の表現で、強い信心信仰の意思を表す。
手を合わせ、手のひらの間に空間をつくらない。両手を胸の前に置き、胸と手の角度は45度くらいが目安。
・虚心合掌(こしんがっしょう)
※空心合掌(くうしんがっしょう)ともいう。
浄土真宗(本願寺派)・天台宗・臨済宗・曹洞宗
幼児の心で、すべてを母親(仏さま)におまかせする虚心の心を表す。堅実心合掌よりも少し手のひらの間に空間をつくる。両手の中に卵を入れたような形。
・金剛合掌(こんごうがっしょう)
※帰命合掌(きみょうがっしょう)ともいう
真言宗
仏と自分がしっかりと結び合う、金剛不動を表す。右手の指を上にして、交互に指を組み合わせ合掌する形。
・未敷蓮華合掌(みふれんげがっしょう)
※如来開蓮合掌(にょらいかいれんがっしょう)、未開蓮合掌(みかいれんがっしょう)ともいう
時宗
虚心合掌状態から、蓮のつぼみのようにさらにふくらます形。
合掌の形式は、浄土真宗本願寺派総合研究所の資料「合掌・礼拝にはどのような意味が?」によれば、真言密教の奥義を授けられた善無畏三蔵(ぜんむいさんぞう)が翻訳した根本経典「大日経」にて12の種類に分類され「十二合掌」と言われています。
その中で、宗派別で見ると、上記のように「堅実心合掌」「虚心合掌」が複数の宗派で使われ、「金剛合掌」は真言宗、「未敷蓮華合掌」は時宗のみで使われており、お墓参りにはこの4つの合掌形式ができるようになっておき、宗派によって使い分けられれば事足りることになります。
お墓参りの作法における、宗派別「線香の上げ方」の違い
宗派 | 線香 |
浄土宗 | 1本 |
浄土真宗(本願寺派) | 本数に決まりはないが、立てずに横に寝かせる |
真言宗 | 1〜3本 |
天台宗 | 1〜3本 |
日蓮宗(法華宗) | 1本 |
臨済宗 | 1本 |
曹洞宗 | 1本 |
時宗 | 1本 |
黄檗宗(おうばくしゅう) | 決まり無し |
融通念仏宗(ゆうずうねんぶつしゅう) | 1〜3本 |
お墓参りの際に行う「線香の上げ方」については、宗派別に上記の表のような違いがありました。
中でも特徴的なのは、浄土真宗(本願寺派)の「線香は立てずに、横に寝かせてお供えする」という作法です。
インターネット上のお寺「彼岸寺」ホームページによると、江戸時代に線香が登場し始めた頃、浄土真宗ではお香を香炉に折れ線状に敷き詰めて用いたことに倣い、線香を香炉に寝かせて使う、という作法になりました。
その他の特徴としては「どの宗派も、上げる線香の本数が1本、または3本とほぼ決まっている」というものがあります。
本数が異なる背景には「その本数に意味がある」という事情があります。1本としている浄土宗・日蓮宗・臨済宗・曹洞宗・時宗の場合は「真の教えは1つだけ」「一心に祈る」という意味があります。また、3本としている天台宗や真言宗では仏・法・僧の「三宝」がとても大切な役割を担っているという「三帰依(さんきえ)」の考えに由来しているほか、「過去・現在・未来」の3つを供養する意味も込められています。
線香を立ててお供えする宗派については、1本の場合は香炉の真ん中に立て、3本の場合は手前に1本、後ろに2本、上から見ると逆三角形になるように立てます。浄土真宗は香炉に寝かせてお供えするのでこの限りではありません。
お墓参りの作法における、宗派別「唱えるお題目(南無阿弥陀仏、南無妙法蓮華経など)」の違い
宗派 | 唱えるお題目 |
浄土宗 | 南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ) |
浄土真宗(本願寺派) | 南無阿弥陀仏(なもあみだぶつ) |
真言宗 | 南無大師遍照金剛(なむたいしへんじょうこんごう) |
天台宗 | 南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ) |
日蓮宗(法華宗) | 南無妙法蓮華経(なむみょうほうれんげきょう) |
臨済宗 | 南無釈迦牟尼仏(なむしゃかむにぶつ) |
曹洞宗 | 南無釈迦牟尼仏(なむしゃかむにぶつ) |
時宗 | 南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ) |
黄檗宗(おうばくしゅう) | 南無釈迦牟尼仏(なむしゃかむにぶつ) |
融通念仏宗(ゆうずうねんぶつしゅう) | 南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ) |
お墓参りの際に唱えるお題目の宗派別での違いは、祀られている御本尊の教えに由来します。
浄土宗・浄土真宗の場合、御本尊は阿弥陀如来であり、私たちは阿弥陀様に救われているという感謝の思いを「南無阿弥陀仏」と唱えることで表すとされています。
浄土宗の作法では、この「南無阿弥陀仏」は十回唱えるとされていて「十念(じゅうねん)」と呼ばれています。
浄土宗「善立寺」ホームページによれば、まずは「なむあみだぶ」と4回連続で唱え、息継ぎ後、さらに「なむあみだぶ」と4回連続で唱える。9回目のみ、なむあみだぶ「つ」と唱え、最後の10回目に「な〜むあ〜みだ〜ぶ」とゆっくり唱えて終了します。
ただし、浄土真宗本願寺派では「なむあみだぶつ」ではなく「なもあみだぶつ」と唱えます。(真宗大谷派は「なむあみだぶつ」)
ちなみに、浄土宗と浄土真宗の違いは、阿弥陀如来の教えは共通している上で、亡くなった後に四十九日をもって仏様になれる(浄土宗)、すぐに仏様になれる(浄土真宗)という考え方の違いにあります。
なお、天台宗・時宗も唱えるお題目は「南無阿弥陀仏」ですが、時宗総本山「遊行寺」ホームページによれば、御本尊が阿弥陀如来とは限らず、天台宗では「釈迦如来」、時宗では寺院の来歴によって薬師如来・観音菩薩・地蔵菩薩が御本尊と分かれています。
日蓮聖人を御本尊とする日蓮宗で唱えるお題目「南無妙法蓮華経」は、日蓮宗「本泉寺」お寺だよりによれば「妙法を蓮華によって例えた経に心の底から帰依する」、つまり「この教えを信じ、それに心から従って生きていきます」という誓いを表しています。
大日如来(弘法大師空海)を御本尊とする真言宗で唱えるお題目「南無大師遍照金剛」は、真言宗豊山派ホームページによれば「大日如来様に心の底から帰依する」、つまり「開祖様である弘法大師空海様の教えを信じ、それに心から従って生きていきます」という誓いを表しています。
禅宗の教派である臨済宗・曹洞宗で唱えるお題目「南無釈迦牟尼仏」は、曹洞宗福地山 耕田寺ホームページによれば「お釈迦様に心の底から帰依する」、つまり「お釈迦様の教えを信じ、それに心から従って生きていきます」という誓いを表しています。
お墓参りの作法における、宗派別「数珠」の違い
宗派 | 数珠 |
浄土宗 | 日課念珠(にっかねんじゅ) |
浄土真宗(本願寺派) | 単輪念珠(ひとわねんじゅ)・二輪念珠(ふたわねんじゅ) |
真言宗 | 振分念珠(ふりわけねんじゅ) |
天台宗 | 平玉(ひらだま) |
日蓮宗(法華宗) | 勤行念珠(ごんぎょうねんじゅ) |
臨済宗 | 看経念珠(かんきんねんじゅ)※金属の輪がある |
曹洞宗 | 看経念珠(かんきんねんじゅ)※金属の輪がない |
時宗 | 日課念珠(にっかねんじゅ) |
黄檗宗(おうばくしゅう) | 看経念珠(かんきんねんじゅ)※金属の輪がなく、108粒の玉と2個の親玉、10個ごとの記子がある |
融通念仏宗(ゆうずうねんぶつしゅう) | 半繰念珠(はんくりねんじゅ) ※片繰念珠(かたくりねんじゅ)ともいう |
日課念珠
浄土宗・時宗
二つの輪が繋がった特徴的な形状です。
単輪念珠(ひとわねんじゅ)
浄土真宗
房が紐房になっていますが、松房(まつふさ)となっているものもあります。
振分念珠(ふりわけねんじゅ)
真言宗
日蓮宗以外の他宗派でも使えます。
平玉(ひらだま)
天台宗
玉が丸くなく平たい形をしています。
勤行念珠(ごんぎょうねんじゅ)
日蓮宗
房が5つあるのが特徴的です。
看経念珠(かんきんねんじゅ)
臨済宗 黄檗宗
臨済宗・黄檗宗の看経念珠には金属の輪はつきません。
看経念珠(かんきんねんじゅ)
曹洞宗
曹洞宗の看経念珠には金属の輪がつきます。
半繰念珠(はんくりねんじゅ)
融通念仏宗
一つの親珠、54玉の主珠と両軸に平珠10玉・丸珠10珠の弟子珠を持ちます。
どの宗派にも共通するお墓参りの作法
ここまで、お墓参りの作法における宗派別の違いを4つのポイントに分けてご紹介しました。
それ以外の、お墓参りの基本的な作法(流れ)においてはどの宗派でも変わりありません。その作法を以下にご紹介します。
お寺であれば本堂にお参りし、住職にご挨拶。 霊園であれば管理事務所にご挨拶。 |
手桶や柄杓など、お墓参りに必要なものをお借りする。 |
手桶の水を汲み、手を洗い清める。 |
合掌礼拝し、お墓の掃除をする。 |
お供え物をお供えする。 |
線香を上げる。 |
合掌礼拝し、一人ずつ手を合わせてお題目を唱える。 |
後片付けをする。 |
まとめ
お墓参りの作法についてはさまざまなサイト等で述べられております。筆者もお墓の取材を続ける中でそれらのサイトを数多く拝見しましたが、「宗派別ではどこにどういった違いがあるのか」について解説された資料が見受けられませんでした。
それが、さまざまな宗派を調査して今回の記事を作成しようと思ったきっかけでした。
せっかくのお墓参りが、宗派による作法の違いを知らなかったために粗相になってしまうのは実に残念なことです。
お墓参りするお墓がどの宗派のお墓なのか?それさえ把握できれば、あとは今回の記事を、安心してお墓参りできるための一助としていただければ幸いです。