「お墓で宴会」
他の都道府県の人たちにとっては謎に思える言葉ですよね。しかし、そこには沖縄ならではの歴史や文化が背景にあり、心から故人やご先祖様を供養する思いが込められているのです。
そこで本記事では、お墓に関する取材を続ける筆者が参りの文化を記録し続ける筆者が、沖縄のお墓参り「シーミー」の基礎知識を、その背景にある歴史や文化とともに徹底解説いたします。
最後まで読んでいただければ、シーミーの全貌がわかるとともに、沖縄県民の「故人やご先祖様を敬う思いの深さ」が感じられることと思います。もしかすると、沖縄県民でなくとも一度はシーミーを体験したいと思うかもしれません。
沖縄のお墓参り「シーミー」とは
そもそも「シーミー」ってどんな行事?
「シーミー」は、毎年4月上旬〜中旬(地域によって多少異なります)にかけて、ご先祖様のお墓の前で親族一同が集まり、盛大にお供え物をして先祖を供養し、その後に宴会をしてご先祖様と楽しく時を過ごすという、沖縄のお墓参りに関する伝統的な年中行事の一つです。
「シーミー」は、正式名称は「清明祭(せいめいさい)」と言います。元々は中国大陸で、旧暦の3月に一族が揃って、お墓掃除の後にお避けや料理などをお供えしてご先祖様を供養する行事のことなのですが、これがそのまま沖縄に伝わり、18世紀の後半に首里の王家が年中行事として取り入れるようになったのをきっかけに、一般にも「清明(シーミー)」の呼称で文化・風習として定着したとされています。沖縄ではあの世のことを「グソー」と呼びますが、シーミーは、あの世(グソー)とこの世に生きる人(生身=イチミ)を繋ぐ大切な行事として、古くから大切に受け継がれてきました。
シーミーは仏教とは異なる観念
シーミーでは、ご先祖様の墓前にお供え物をしますが、お教や念仏を唱えることはしません。また、仏教を念頭に置けばまずお供えしない肉や魚をお供えし、宴会をしてお酒を飲むということからも、仏教とは異なるお墓参りの風習と言えます。シーミーの歴史に詳しい沖縄国際大学・沖縄大学の非常勤講師である稲福政斉さんは、「中国の民間信仰をそのまま取り入れたものであり、もともと祖先崇拝の念が強い沖縄県民に自然に受け入れられて定着したと考えられる」と解説しています。
これらの体験談からわかることは、お墓参りは単なる故人を偲ぶ場ではなく、「何か不思議なことが起こる」というスピリチュアルな体験をする可能性があるということです。
「沖縄のお墓は大きい」という大前提がある
他の都道府県の人は、「お墓で宴会?」という疑問とともに、「そもそもお墓に宴会ができるスペースがあるのか」という疑問も生まれることと思います。
結論、沖縄のお墓は大きく、宴会ができるスペースもあります。それが沖縄のお墓の普通の姿なのです。
沖縄のお墓の特徴
沖縄のお墓は、他の都道府県のお墓とは大きく異なる点がいくつかあります。
まず、沖縄のお墓は、亀甲墓(かめこうばか)と呼ばれる独特な形をしているのが特徴です。
亀の甲羅のような形をしたお墓の内部には、広い空間があり、先祖代々の遺骨が納められています。
沖縄のお墓は、他の都道府県のお墓のように、個人を弔うための場所ではなく、家系全体で祀るための場所という考え方が根付いています。そのため、お墓の入口には、石でできた門があり、門扉の前には、親族が集まって食事ができるように広いスペースが設けられています。最低でも4畳半〜6畳くらいのスペースはあり、宴会をするスペースとしては十分です。
ちなみに、沖縄の墓地として有名な那覇市識名地区では、各々の墓地が私有地で、お墓も墓石だけではなく、まるで「石でできた一戸建て」のような形式のお墓が並びます。他の都道府県の墓地とはまるで違うお墓のあり方がここにはあります。
そのため、シーミーの際には、親族一同が集まり、世代を超えた交流の場にもなっているんです。
シーミーの一連の流れ
1. お墓の掃除
基本的には、年配者がシーミーのためにお墓を訪れる前に、若年層の人たちがお墓や敷地をきれいに清掃します。その間に、ウサンミ(御三味)などのお供え物の準備を担当する人はそれらを持参し、そして年配者が訪れる形になります。
2. ヒジャイガミ様へのお供え〜ウートートー(神仏への祈り)
ヒジャイガミ(左神)様とは、墓地を守ってくださる神様のことで、お墓の向かって右側に鎮座しています。お墓の内側から見れば左側になるため「左神様」と言われています。
まずはヒジャイガミ様にお供えし、ウートートーをします。お供え物については記事の後半で説明します。
3. ムートゥーヤー(宗家)を中心にお供え〜ウートートー
まずムートゥーヤーに、次に親族その他にお供えをしてウートートーをします。こちらもお供え物については記事の後半で説明します。
4. ウサンデー(お供えしたものをいただく)
このウサンデーが、いわゆる「宴会」です。日よけのテントを張り、ブルーシートを敷いて、墓前で宴会。お酒を飲むのもOK。敷地の広いところではバーベキューをする一族もいます。一族の誰かが引く三線の音色とともに、みんなで歌を歌ったり、カチャーシーを踊ったりします。
これほど明るく楽しく時間を過ごすのは、「みんな健康で元気に育っています」というご先祖様への報告だという考え方があります。
シーミーのお供え物
シーミーのお供え物の中で、花については季節の花を供えるという点、また1対であることが望ましい点は他の都道府県と考え方に相違はありません。
また、飲み物についてもウチャトゥ(お茶)・ミジトゥ(水)・ウサク(お酒)が基本です。お酒については他の都道府県では望ましくないとされることもありますが、沖縄では「ご先祖様も一緒に飲みたがっている」という考え方なので良しとされています。一般的には泡盛やオリオンビールなどがお供えされています。
一方、その他のお供え物については沖縄は独特のものがあります。
ウサンミ(御三味)
シーミーの際にお供えする沖縄の伝統的なお供え物です。重箱に詰めて持参しますが、重箱の中身はおかず重ともち重があります。
おかず重には基本的に
- 魚のてんぷら
- 豚の三枚肉
- かまぼこ
- カステラかまぼこ
- 田芋(ターンム)のから揚げ
- ごぼうの煮付け
- 揚げ豆腐
- こんにゃくの煮付け
- 昆布の煮付け
の9品が代表的なものです。
シーミーがお墓参りでありながらお祝い事の意味合いもあるので、昆布は結び昆布、かまぼこは紅かまぼこでもOKです。
品数は9品でなくてもいいですが、その場合は3・5・7という奇数にします。
同様の考え方で、もち重は紅白のムチ(もち)、よもぎムチ、あんこの入ったムチもOK。これを3個×3列など、奇数で詰めていきます。
ちなみに、先にヒジャイガミ様にお供えする際に「ウチジヘーシ(お初返し)」と言って、重箱からお皿に取り分けてお供えします。その後、墓前にお供えする際にはとりわけた分のおかずやもちを補充してからお供えするため、補充用のウサンミを準備しておく必要があります。
他にお供えする食べ物としては果物やお菓子があり、ここは他の都道府県と変わりありません。
ヒラウコー(平線香)
色が黒くて平たい、沖縄のお墓参り用の線香です。6本が一つの塊(1片)となっていて、それをムートゥーヤー(宗家)には2片、親族その他には2分の1片をお供えします。
ウチカビ
「あの世のお金」とされる、沖縄独自のお供え物。これをカビバーチ(火鉢)またはジングラ(銭倉)で燃やすことで、ご先祖様があの世(グソー)にお金を持っていけるとされています。まずはムートゥーヤーに向けて、ウチカビを5枚燃やします。その後、親族その他に向けて、ウチカビを3枚燃やします。その後、お酒で火を消します。
シーミーの服装について
シーミーは「墓前でお祝い事をする」という意味合いから、かしこまった喪服や地味な服装で行く必要はなく、普段着でまったく問題ありません。普段の元気な姿を見せることでご先祖様も喜ばれるのです。
世代別に見るシーミーの楽しみ方
シーミーは、大人から子供まで、幅広い世代が集まる貴重な機会です。ここでは、世代別に、シーミーの楽しみ方をご紹介します。
世代 | 楽しみ方 |
子ども | シーミーは、親戚一同が集まる貴重な機会です。 普段なかなか会えないいとこたちと遊べるなど、楽しい時間を過ごすことができます。 |
大人 | 大人にとって、シーミーは親族と交流を深め、絆を再確認する場です。 お酒を酌み交わしながら、昔話に花を咲かせたり、仕事の話をしたりと、シーミーを通して親睦を深めることができます。 |
高齢者 | 高齢者にとっては、シーミーは自分たちのルーツを振り返り、先祖に感謝の気持ちを伝える大切な機会です。 子や孫の成長を喜びながら、昔を懐かしむ高齢者の姿は、シーミーの象徴とも言えるでしょう。 |
まとめ|シーミーは沖縄の人々の心の拠り所
本記事では、沖縄のお墓参り「シーミー」について、その歴史や文化も詳しく解説しました。
墓前で宴会という、他の都道府県民からすれば一見すると疑問に思われる風習ですが、その背景には中国から伝わり首里の王家から一般に浸透した歴史があり、またご先祖様を敬い、感謝の気持ちを伝えるとともに、親族が元気で暮らしていることを報告しつつ絆を深めるという貴重な機会なのです。